Books - 繊研新聞社発行の書籍

竺仙のゆかた 江戸の粋
= 宮下政宏 著
B5変形判 176頁(オールカラー)/1600円
[ISBN 978-4-88124-244-5]

<本書紹介>
 〝粋〟のデザインを極め、支持され続ける老舗ブランド天保13年(1842年)、浅草に創業。竺仙(ちくせん)は、無地や絞りが主流だったゆかたに初めて柄を染めた。
 江戸の粋にこだわったそのゆかたは、夏のファッションとして庶民に広まり、平成の今日に至るまで憧れのブランドであり続けている。
 そのデザインは異業種のデザイナーやブランドにも注目され、協業も活発だ。
 「粋であること=粋ひとがら」を追究し、進化し続ける老舗ブランド、その魅力に迫る。
著者 プロフィル
宮下 政宏(みやしたまさひろ)
 1964年、東京生まれ。上智大学文学部卒業後、マーケティング・広告制作会社に入社。98年、フリーに。
 繊研新聞社のきもの業界誌への執筆、ファッションビジネス関連の書籍編集を中心に、その他分野の広告・情報誌の編集・執筆などに携わる。

『 竺仙のゆかた 江戸の粋 』 宮下政宏 著

第一章 竺仙という記憶 庶民の企画力と進取の精神が作り上げるブランド

粋にさまざまあれど、竺仙の染めは「粋ひとがら」
「自ら作って売る」という商い
江戸土産としての竺仙のゆかた
下町の〝いなせ〟と山の手の〝品の良さ〟
役者や文人墨客……粋人たちの言動をデザインに
馬十連 竺仙の粋を方向づけた人々
仙之助が吸収した文化人の美意識
「竺仙鑑製」 時代は変わっても軸はブレない
コラム
江戸小紋の話

第二章 時代に応じたベーシック 五代目当主・小川文男氏が語る物づくりへのこだわり

流行は追わない、しかしトレンドがある
〝庶民の企画力〟から生まれたデザイン
日本のデザインとしての「竺仙」
意味のある線や柄以外は排除する
お客さまの評価が当主の〝目〟を磨く
柄を増やすことには覚悟が要る
デザインを引き立てるのは素材、だからこだわる
既製品も誂えも同じ工程で手づくりする
夏の衣料として心地よく、ファッション性のある素材
竺仙ギャラリー
ポスターに見る時代のとらえ方とデザイン 1989~2011

第三章 対談/江戸のデザイン 共感の輪を創る、商いのサステイナビリティー
いせ辰代表・鈴木真二氏×竺仙五代目当主・小川文男氏

デザインには外してはいけない店なりの基本がある
いせ辰と竺仙の交わるところ
店のイメージを崩さないことが継続を生む
職人の感性と技術が物づくりの根幹を支える
幹がしっかりしていないと、枝も育たない
物づくりのこだわりと脇役の存在
コラム
手拭いの話

第四章 「粋ひとがら」を支える人々 竺仙のクリエーションを担う職人たち

「粋ひとがら」が生まれる場所を訪ねて
コミュニケーションで進化する粋のデザイン
〝作る〟から〝売る〟までをプロデュースする
「江戸型彫」が生み出す粋のデザイン
矢田型紙店/東京都葛飾区
長板中形で染める独自の藍色「納戸」が持ち味
恩田染工場/埼玉県三郷市
一貫生産で小紋の両面柄を染める長板中形
野口染工場/東京都八王子市
ゆかたに味を表現する〝手差し小紋染め〟
小室染色工場/東京都墨田区
ひと手間加えるから「竺仙」になる、だから残る
伊勢保染工所/東京都江戸川区
一人ひとりのお客にとっての「竺仙」を仕立てる
御園生和服裁縫所/東京都中央区
帯の仕立て一筋に生きる和裁士
成田帯縫製所/東京都台東区
コラム
「竺仙」を体感する展示会

第五章 新しきを生む老舗 コラボレーションで切り拓く、もう一つの未来

現在進行形の老舗ブランドであり続ける
ブランドが求めるブランドに
ゆかたでもコラボレーション
新しきを生む「竺仙デザイン研究所」の挑戦
日本のデザインとしての可能性を追求する
和の文化の豊かさを伝える取り組み
竺仙随想
五代目当主・小川文男

本書の特徴

  1. 毎年1千柄の新作を発表する竺仙。“日本型SPA”を標榜する同社の物づくりと商いへの取り組みを歴史的資料とともに解説。
  2. 竺仙が追究してきた“粋”のデザインを豊富なビジュアルで紹介。江戸のデザイン集としても楽しめる。
  3. 年間テーマに基づいて物づくりをする竺仙。そのテーマを発信するポスターは毎年、竺仙ファンが心待ちにする。竺仙の感性を凝縮したポスター集は見応えあり。




はじめに

 竺仙(ちくせん)は江戸末期、天保13年(1842年)の創業からまもなく「ゆかたの竺仙」として名を広め、“江戸の粋”を表現したそのゆかたは、江戸、明治、大正、昭和、そして平成と時代を超えて庶民に愛されてきました。
日本人のライフスタイルが多様化し、衣服も洋服が当たり前になった中にあってもなお、竺仙が毎年1000柄の新作を安定して世に出すことができていることからも、いかにブランドとして市場に浸透しているかが窺えます。

 では、なぜ竺仙はブランド足り得ているのか―素朴な問いかけから、本書の編集はスタートしました。
これまで竺仙は、きもの関係の雑誌をはじめ数々のメディアで紹介されてきましたが、書籍としては初めてのものになります。
竺仙にも自社の歴史を系統的にまとめた資料はなく、代々の当主に語り継がれてきた話や古くからの得意客から当主が聞いた話、過去の文献などに記された竺仙にまつわる話などを五代目当主の小川文男氏に伺い、断片的な記憶や記録を掘り起こしてはつなぎ合わせることの連続でした。

 これは大変な世界に踏み込んでしまったぞ、というのが当初の感想でしたが、その記憶や記録が断片的なだけに魅力となって心を引きつけるようにもなっていきました。

 とくに初代・仙之助については興味が尽きません。
無地や絞りが主流だったゆかたに初めて柄を染めたのは竺仙だった、そのゆかたは江戸土産として広まった、時代の先端を行く文人墨客たちとの交流が竺仙の新奇なデザインを生んだ……当然のことではあるのですが、竺仙の商いの原形は初代・仙之助の時代に認められます。
それは「自らが作って、自らが売る」という商いの姿勢です。自ら売るからこそ、庶民の声を反映した物が作れる。
庶民の声を反映した物を作るからこそ、売れる。そこにひと味、独自性を加えるヒントやアイデアを文化人たちとの交流を通して吸収し、咀嚼して自らのものにしていく。だから、新しい。

 このような商いのスタイルが、代々の当主に受け継がれてきました。
言ってみれば、庶民とのコラボレーションが竺仙の“粋”を育んできたということです。
そのことを竺仙では「庶民の企画力」と表現しています。ただ一点、「粋であること=粋ひとがら」を追究し、庶民の企画力を生かしながら竺仙のデザインは進化してきました。

 また、エコロジーやロハスが重要な課題となっている昨今ですが、竺仙は独自の“粋”を自然素材にこだわって職人の手によって表現しています。
物を大切に使う循環型社会だった江戸時代から変わらない物づくりを続けているのです。

 少し大袈裟かもしれませんが、人や環境に対する価値観を“粋”の表現として時代ごとの庶民の力を借りながらアウトプットし続けてきたのが、竺仙というブランドではないでしょうか。

 竺仙というブランド、竺仙という生き方を、本書を通じて感じていただければ幸いです。


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