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社長さんの<行商>日記 |
| <本書紹介> 一店一店を足で回り、商品を入れ替える――店頭密着の〈行商〉が会社を変えた SPA(製造小売業)のあぶちは、「アップルハウス」ブランドで直営店を展開し、多くのファンを獲得してきた。しかし反面、卸売り分野は長期低迷に。 これでは売り上げの拡大は望めないし、商品開発力も弱まる。そこで起死回生策として取り組んだのが、社長自らが専門店を回り、店頭の商品を入れ替え、売れる店にしていく卸売りの強化――それを〈行商〉と呼んだ。 一店一店とのふれあいの中で、物づくりやサービスが変わり、会社そのものが変わっていく。 |
| プロフィル たかはた けいこ(高畑 啓子) 1949年、静岡県浜松市生まれ。 「アップルハウス」のブランド名で知られる婦人・子供服の企画・製造会社「あぶち」の代表。現在、47店舗(FC含む)を全国展開している。 1993年に、自分と店の歩みを記した作品『風が止むまで』で第3回北九州市自分史文学賞を受賞。著書に『小さなお店を作って成功する法』(日本実業出版社)、『独立開業マニュアル』(PHP研究所)、『手づくりショップサクセスもの語り』『小さな店のつくり方』『ジャパン・クリエーション』『会社経営は波瀾万丈』『一喜一憂365日』(繊研新聞社刊)など多数。 URL:http://www.applehouse.com |
| プロフィル みやした まさひろ(宮下 政宏) 1964年、東京生まれ。上智大学文学部卒業後、マーケティング・広告制作会社に入社。98年フリーに。 繊研新聞社のきもの業界誌への執筆、ファッションビジネス関連の書籍編集を中心に、その他分野の広告・情報誌の編集・執筆などに携わる。 |
前作『りんごと木綿の詩』(繊研新聞社 2009年3月出版)の編集をスタートした頃のこと、たかはたけいこ氏が一言、つぶやいた。
「ちょっと前から『行商』をしているの」
「行商」ということは、たかはた氏という社長自らがアップルハウスの商品を、1軒1軒の家庭を回って売り歩いているということ……?と一瞬は考えたが、話の続きを聞くと、どうやらアップルハウスの商品を取り扱う店(取引先)への卸売りらしい。本来の行商の意味とは異なるものの、「お客さまとともに作って、売る」という
アップルハウスの考え方と照らし合わせれば、妙にしっくりとくる営業活動の呼び名だと合点した。
それから9カ月ほどが経って、繊研新聞社出版局の井出重之氏から電話があった。
「次のたかはた本のテーマは『行商』だ」
気になっていたテーマではあったが、よくよく考えて確かにおもしろいと思った。「自分たちで物を作って、売る」というSPA(製造小売業)が、今、なぜ「行商」なのか?その内容は?そこには、物が売れないと言われる昨今の情勢下で、多くの企業に共通する悩みや課題があり、今後の活路という意味でのヒントもあるのではないか、と思ったからだ。
アップルハウスは、たかはた氏が社長を務める「あぶち」が運営するブランドだ。アクセサリーの製造・販売からスタートし、現在は木綿などのオーガニックな素材を使った洋服をメインに、31店の直営店を運営。ブランドの設立から三十数年が経過し、ファンも多い。しかし、売り上げのピークは1996年で、以降は低迷が続いていた。経費削減や人員整理など、やれることはやったが売り上げは減っていく。この売り上げの低迷が、たかはた氏に「行商」を決意させた直接の原因だった。 「電卓を叩き、パソコン画面でエクセル計算をし、新聞を読み、打ち合わせを繰り返しても結果としての数字は出てこなかった。万策は尽きたと思った。次の瞬間、気づいた。私は ″考えることしかやっていなかった。それで、改めて得意先を回ろうと思った」
それが08年末のことだった。実績データを見ると、とくに卸の売り上げがピーク時の9億円から1億円弱にまで減っていたという。卸の取引先に対して、あいさつ回りこそしていたが、実質的なフォローはしてこなかったことが大きな要因だった。 「『いつもお世話になっています。これからもよろしくお願いします』――そんな一方的な会話だけでは数字をつくることはできない。しかし、さまざまなリストラをして、ただでさえスタッフは仕事に追われ、そこに外営業までは強要できない。自分で商品を持って得意先を回ろう。得意先の店頭でオーナーの感性やメーカー構成を見て、お店に合った商品をその場で選んでもらえば、売り上げは計上される」
つまり、店頭の商品の入れ替えを、メーカーの社長自らがその場でやってしまおうということだ。その「行商」を08年12月に始め、約1年が経って卸の売り上げは着実に伸び、何よりも「会社そのものが変わった」と言う。「行商」が社内で認知され、スタッフの協力体制ができてきた。スタッフも「行商」に参加するようになって、得
意先のオーナーとの距離が縮まり、コミュニケーションが活発になった。それによって、よりマーケットニーズに即した商品を作れるようになった……。
当然のことながら、いくつもの壁に突き当たりもした。諸々の問題も含めて、アップルハウスの「行商」は、物を売るための取り組みでありながら、人(店、顧客、メーカー)がハッピーになるためのメーカーによるコミュニケーション型ビジネスとして注目される。その意味では、洋服に限らず、さまざまな商品の生産・販売に携わる企
業にとって役立つ内容だと考える。
本書は当初、たかはた氏が執筆する方向で話は進んだ。しかし、本人が執筆した場合、主観的な叙述の魅力は出るもののビジネスの全容を客観的にとらえづらくなってしまうのではないか。とはいえ、本人が語るからこそリアルである。そこで本書は、編著者が質問を投げかけ、たかはた氏が答えるというインタビュー形式を採った。
単なるビジネスの方法論ではなく、時代環境が変わっても変わらない ″商売の原点が、そこからは見えてくる。
ライター・宮下政宏