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今様きもの講座 |
| <本書紹介> 「検定」流行りに象徴されるように「学び直し」の時代といわれる。 着て楽しむことと同時に、きものに関する諸々のことを知りたいと願い旺盛な知識欲を発揮する消費者。 一方、商う側はというと、売ることばかりに腐心し、きものの染織について不案内な“プロ”が増えてきたと指摘される。本書はそうした時宜をとらえ、きものの世界をより知りたいと願うきものファンたちへ、また商う側にとっては当然、知っておかなければならない基礎的な知識として書かれたものである。 |
| プロフィル 松原 義正(まつばら・よしまさ) 1945年、岐阜市生まれ。68年日本大学経済学部卒業。丹羽幸(株)きもの事業部取締役本部長、(株)丹裳会常務を経て、現在はファーストアイ美ふじ庵勤務。 丹羽幸入社が「きもの人生」の始まり。自生地や喪服、色無地の商品仕入を担当した後、友禅の業界へ。さらに希少産地を含め、全国の織物産地を訪ね、多くの職人や作家と交流を深める。とくに「作り手の熱い思いを届ける」ことに努め、全国の小売店やきもの愛好家の間に広く伝えてきた。 |
1968年(昭和43年)、私は大学を卒業して名古屋のある繊維総合商社に入社、きもの事業部に配属され、以来、43年間をきもの業界に携わってきました。
入社した頃は量販店の拡張時代。ダイエー、イトーヨーカ堂、長崎屋、ニチイ、西友、ユニー、壽屋といった店が次々に出店し、時を移さず一大小売業として全国チェーン化していく様は、まさに60年代初頭からの高度経済成長を象徴的に物語るものでした。
高度経済成長は勤労者の所得を倍増させ、その増えた所得のいくらかがきものにもまわったことで、きもの業界もその恩恵に浴したものです。各社のきもの展示会はどこも大いに賑わい、私どもが開催した展示会においてもお客様のご来場が一日に1千名を超える日が何度もありました。今から思うと、まさに隔世の感、当時の活況振りが嘘のようです。
現在のきもの市場はピーク時(1982年)から5分の1に減ったといわれます。果たして、日本の女性たちのきものに対する関心は薄らいだのでしょうか。そうであるならば寂しい限りですが、よくよく振り返ってみると、需要が減った本当の原因はどうもきものを商う私たち業界の側にあったように思います。
時々の消費者の価値観の変化に目を配ることなく、多くの店が高額なきものを中心とした企画を立て、それを売るための勧誘や販売のテクニックに終始してきたことが消費者の不信を招いたのではないか。もちろん、そのことを後押ししてきた問屋やメーカーも同罪でしょう。このことを猛省することから出発しなければ、最早、商いを続けていくことはできなくなってきました。
さて、肝心の消費者のきものに対する関心はというと、薄らいでいるどころか、むしろ強まってきたように思います。数年前から明らかにきもの姿の女性を見かけることが多くなってきました。それも20代、30代の若い人たちの間に顕著な傾向として表れています。
IT化やデジタル化といった合理化やスピード化を追い求めてきた現代社会が、一方でスローライフや伝統への見直しといった気分を育み、そのことが和やきものへの関心に結びついてきているのだと思います。そういう中でのきものと結び合う関係というのは、きもの需要の多くが儀礼的に必要とされたかつての時代とは違い、きものによって暮らし方のスタイルを表現しようという極めて自主的なものです。
自主的ですから、そこには自ずときものに対する学びの意欲の発展があります。「着て楽しむことと同時に、きものに関する諸々のことを知りたい」。パソコン上でのネット検索も駆使しながら、旺盛な知識欲を発揮しているのが現代の女性たちの特徴です。
一方、きものを商う側はというと、きものの染織における素材や技法、文化、歴史的な背景などについて、不案内な・プロ・が増えてきたということがよく指摘されます。
これは、きものの文化や魅力を説く伝播者としての役割を忘れ、売ることばかりに腐心してきたことによる結果ですが、誠に残念なことです。
このような状況の中で、「私たちきものを商ってきた者が償いという意味からも、きものの本当の魅力を伝えていかなければならない」との思いを、常々痛感していました。そんな折、京友禅の有力メーカー、株式会社北川の北川悟社長から本としてまとめてみないかとのお話をいただいたことが、本書を出版するきっかけとなりました。
幸い、長年きもの業界の最前線に身をおき、たくさんの人との出会いの中で私が学んできたこと、体験してきたこと、また各種の資料やきもの本を参考にしながら書き溜めたメモが、いつしか膨大な資料として残っていました。とはいえ、これらを一冊の本として原稿にまとめるのは大変なことでした。
発行の最後まで、さまざまにバックボーンとなっていただいた北川社長に改めて御礼申し上げます。編集、校正にあたって並々ならぬお骨折りいただいた田部陽子さんのご尽力に、また発行の機会をつくっていただいた繊研新聞社の山里泰氏に感謝申し上げます。
本書が、きものを愛する消費者のきものへの関心をさらに促す機会となり、またご商売を通してお客様へ豊かなきもの文化の提供者たらんとする業界の方々にとっても、いささかでも資することになれば筆者の望外の喜びとするところです。
二〇一〇年三月、吉日 松原義正