|
|
東大門へ行こう! |
| <本書紹介> 「東大門」――そこは32の商店街を配し、4万もの店舗と2万軒の生産工場が半径2キロ圏内に密集する。 一つのエリアに、衣料関連のみでこれ程の規模を集積する市場は、世界中のどこにも存在しない。広くて深い繊維産業の集積地(クラスター)である東大門は、アメリカのシリコンバレーに倣(なら)って、「東大門ファッションバレー」と呼ばれる(文中より)――。 本書は、今日のファッションニーズである「アップグレードなデザインと品質、そして安い」に応え得るセンターが、まさに東大門であることを浮き彫りにした。 〈最強のバイイングスポット東大門〉を、まずはリサーチしてみよう。 |
| 著者 プロフィル 鄭 昇逸 韓国ソウル市生まれ。1983年岡橋商事貿易部入社(日本)、85年漢城実業対日貿易部入社(韓国)。2004年貿易日報国際部記者。現在、韓国貿易協会貿易アカデミー教授(国際マーケティング戦略、貿易実務日本語担当)、文化服装学院大学韓国広報担当、国際交流院長、「ソウル市ソウルファッションセンター」輸出諮問委員・東大門フェスティバル日本広報担当。 著書に「貿易日本語会話」「ビジネス日本語会話」「日本ビジネス成功の秘訣」「ファッションバレーの東大門」「サービスここまでやれ」「ファッション日本語」「ネットファッション日本語」他多数。 平木 孝典(ひらき・たかのり) 東京都生まれ。1988年韓国留学、韓国外国語大学大学院修了(文学博士)、加計学園ソウル事務所長、世宗大学の教職を経て現在、韓国外国語大学教育大学院教授・韓国日本言語文化学会常任理事。 著書に「Enjoy 日本語」「7週間で学ぶ体系日本語会話」、監修に「ファッション日本語」「韓日辞典」など。 |
かつて日本の繊維企業の多くが労働集約的な加工業を韓国に依存し、その後、その生産基盤を中国へと移していったという経過がある。しかし最近はまた、韓国へとUターンするといった現象が目立ってきた。
理由は、中国の労働法の改訂、人件費や材料費の急上昇、人手不足などによる労働集約的産業の退潮などが背景となっている。ただ、このところのUターンの理由は、単なる労働集約環境の変化やコストパフォーマンス効果の低減だけではなさそうである。
消費の多様化に加えて、短いスパンでモノが大きく動くことのない時代である。そして(1)アップグレードなデザイン性と(2)機能性(品質)を備えながら(3)価格が安いが、ファッションニーズの世界標準となってきている。
こうした消費環境の変化を伴うマネージメントの視点は、小ロット、短納期、在庫リスクの軽減を軸に、いかに高い商品回転率で販売していくか。またサプライヤー(供給者)も、三つの標準をクリアしながら小ロットによるOEM(相手先ブランドによる製造)や仕入れの要望に細かく、スピーディーに対応していくことが求められる。韓国への見直しの背景には、そうした対応力への期待がある。
東大門には1日に2千人以上のバイヤーが訪れる。ある商店街では店の看板はみな日本語で表記され、商人たちもファッション関連の日本語を学ぶようになり、より日本との取引を重視するようになった。
また行政当局(ソウル市)も東大門地域の商業活性化とともに、外国人バイヤーの便宜にも供するために外国人購買案内所を設けるなど、さまざまな支援活動を強化している。
そうした行政当局の支援強化の背景には、一時、斜陽産業といわれた繊維産業を商人たちががんばり、盛り返してきたことが彼らの見直しと再評価を促したといえよう。とくにファッション感覚に優れた若い商人たちの活躍によって東大門市場は活性化され、そこに産業の未来性を読み取ったのだろう。行政がいくら振興策を振りかざし資金提供を先行させたところで、現場にそれを生かす活力がなければ産業が活性化されないのは多くの例が教えている。東大門の現場は行政の支援が有機的に機能する活力と、今日のファッションニーズに対応する仕組みを備えている。
ソウル市は、ファッション産業を観光やIT、バイオなどと共に「6大成長動力産業」として指定している。そして、その産業育成の柱となるのが元東大門運動場跡地に現在建設中の「トンデムンデザインプラザ」だ。デザイン本部やデザイン博物館、ファッションショー専用のコンベンションホール、物流センターなどを運営する。労働集約産業としてのパワーと共に、国際的なデザインの発信地としてのソフトインフラの構築を目指している。
東大門には各国から多くのバイヤーが集まるが、日本のバイヤーが最も取引しやすいというのが東大門商人たちの多くの声だ。それはファッション感覚の共通性にとどまらず、コミュニケーションのニュアンスまで割りと理解し合えるからだろう。
「21世紀はアジアの時代」と言われる。今後、韓国と日本がコレクションやセミナー、輸出入商談会などを活発に交流することによって、両国の内需が活性化し、ひいては世界のファッションマーケットをリードする日が到来する。本書がその道行きにいささかでも資することになれば望外の喜びとするところである。
なお末尾になってしまったが、本書発行の機会を設けてくださった繊研新聞社の永見俊彰氏、製作の過程でご尽力いただいた山里泰氏に改めて心からの謝辞を呈したい。
2010年5月 鄭 昇逸 平木 孝典