繊研新聞掲載のコラム
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視点/2009年11月
2009/11/30
表層から本質へ
マスコミの世界には、センセーショナルに報道しやすいネタばかり追い求める手法がある。小さな事実の取材を積み重ね、取材相手の信頼を得ながら、伝えるべきことを伝えるのがジャーナリストの基本だと思うのだが、これとは反対に、脚光を浴びそうなテーマに飛びつき、情報を拾い集めていく。読者には両者の区別はしにくい。ただ、後者のやり方は「放漫な取材になりがちだし、ミスリードを招きやすい」と、先輩記者から注意されたことがある。
中小の町工場が残る東京の下町に若手クリエーターがアトリエを移したり、コレクションの会場に選ぶ傾向をとらえ、「下町がトレンド」的な声を最近よく聞く。実際、雑誌の特集も増えた。しかし、安易なキャンペーンには違和感がある。彼らは物作りや濃密な人間関係に立脚し、新しい価値を創造しようとしているのであり、従来のファッションビジネスの感覚で表面を切り取るだけでは本質をとらえられないと思うからだ。(吾)
2009/11/27
ありがたいけれど
先週の連休中、友人との話題になっていたのは「ユニクロ」の60周年キャンペーンだ。「アンパンと牛乳を配るってのが笑えるよね」「それで銀座に早朝から行列が出来ちゃうんでしょ」と、買い物を楽しませるイベントになっていた。
一方で、5000円の購入で現金1万円が当たる販促に対し、「やりすぎじゃない」という声は多かった。必要な人は「ヒートテック」を既に持っていたし、日常的に使う服も間に合っている。話題性で店に入ったものの「現金につられて余計なものまで買うのは馬鹿らしい」と、かごを置いた友人もいた。
不況下で価格訴求はありがたい。けれど、今秋のように破格プライスが連発され、“買わせる”まで過剰に消費をあおるのは良くない。それで使い捨ての意識が広がったら社会責任になりかねない。消費者への還元でも適度な方法があるはずだ。(渉)
2009/11/26
売り下手
最近、国内のテキスタイルメーカーから「いい売り先はないか、どう売ったらいいのか」と頻繁に聞かれる。小売価格の下落に伴い、海外縫製と素材の現地調達が進み、ますます売れないと嘆く企業が増えた。
欧州のある有名テキスタイルメーカーの社長は「価値のある商品作りとその価値を川下に伝えることが大事」と言った。宣伝費用は惜しまず、キャッチコピーのつけ方もうまい。その点、国内メーカーはいまひとつ。世界一や独自の技術があるのに、売り下手だ。「素材のことを知らんバイヤーやデザイナーが多くなった」と言う割に、展示会場では、黙っていても「見れば、触れば分かるだろう」という職人気質がまだ強いように見受けられる。
問屋や商社を介す販売形態では良さが伝わりにくいと、アパレルに直接提案する機会もずいぶんと増やしている。合繊肌着のヒットを機に、一般衣料でも機能が注目され始めた今こそ、消費者やアパレルに向けて能書きをたれてほしい。(裕)
2009/11/25
低価格ブーム
今年は、ファストファッションや激安ジーンズなど低価格ブームに振り回された感じだ。不景気もあるが、量販店などでは食品や住関連はそう減っていないのに、衣料品だけが落ち込んだ。
「婦人服は大変な状況」と量販店の婦人服部長。半額にしても2倍は売れないと分かっているが、「他社に対抗しろ」というトップダウンの指示もあるようだ。アパレル側も「今までにない厳しさ」「打つ手ない」「発注が遅く、少ない」と現場の営業マンは苦慮している。
「マスコミも、あおり過ぎ」。安くないと悪いような風潮の報道も目立ち、おしかりも多い。「結局、誰も得していないのでは」という指摘もあり、デフレが景気の悪循環を助長しているとの見方も出てきている。
しかし、低価格ブームは改めて、自社の無駄・無理、立ち位置を考え直すきっかけになったのかもしれない。各社とも効率化に腐心している。市場が絶えず変化している以上、事業構造も変わらざるを得ない。(茂)
2009/11/24
振袖の二極化
きもの市場をリードする振袖だが、販路と商品特性が明確に二極に分かれてきた。
一つはレンタル市場向けで、明るく輝くようなブルーや黄色などカラフルな商品が主流で、柄もリボンやハート、星など可愛いらしいものがほとんど。キャラクターブランドが中心で、インクジェット染色が多い。
もう一つはきもの専門店など向けで、伝統の古典柄にシックで濃いめの赤や黒、白といったオーソドックスな色使いが主流だ。加工も伝統の友禅染が多くなっている。
レンタル向けは着る本人が好んでオーダーすると言い、購買向けは祖母などがスポンサーとなって買って上げる。
今、伸びているのはレンタル向けで、市場単価もそれにつられて下落傾向にある。この動向に対し業界内で評価は分かれるが、着る本人が好むという現実は否定できない。流れを見極めた、バランスある対応が必要だろう。(陰)
2009/11/20
すててこ
メンズインナーの来春夏物展で「すててこ(=ロンパン)に期待」と聞き、その意外性と商品に驚いた。今夏のスマッシュヒットを受け、来春夏は型数を大幅に拡大、スキニーパンツに対応したタイトなニットタイプを充実し、「下着を着けない一枚ばき」をヤングに提案したいという。色柄が豊富で従来のイメージを覆す商品のため、すててこを知らないヤングには新鮮に映るのではないか。
ただ百貨店が主販路だけに「若い層にうまくアピールできるかどうか」と担当者が嘆くのを聞き、それならヤングに強い店や業態と組めばいいのでは、と感じた。ファッションビルが運営するネットサイトで販売するなど、方法はいくらでもあるはずだ。
今のやり方に固執しすぎると、せっかくヒットの芽を見つけても大樹に育てることは出来ない。今こそ一歩を踏み出す勇気が必要なのではないか。消費者に喜んでもらえると信じて。(淳)
2009/11/19
ネットの本質
この間、IT(情報技術)企業を何社か取材して驚きがあった。インターネットマーケティングとは、即効性を期待するものではなく、中長期的に考えなければ成功しないというものだ。日頃、ネットの速報性に目を奪われていることもあり、この考えにはハッとした。
確かに、売り上げを伸ばしている専門店は、バイヤーや販売員のブログを、こつこつと更新するという地味な作業が奏功している。「ユーチューブやミクシィも、立ち上げて数年かけて今の知名度にある」と、あるIT企業の社長は言う。
ネットを通して消費者から支持を得るには、消費者の声に耳を傾け、求められるものを提供し続けるという誠実な姿勢が問われる。ネットは、アパレルにとって不慣れな媒体だが、本質は実店舗となんら変わりはないことに気づかされた。消費者と密なコミュニケーションが取りやすい分、苦手意識を取り払えば、ネットは救世主になるかもしれない。(金)
2009/11/18
効率化
ある婦人服メーカーの社長は「今後はトータル提案をやめて、一つのテイストに特化していく」と言う。40型ほど作っていた企画を10~15型程度に絞り込む。絞る対象をアイテムにするのか素材かは未定だが、自社の強い部分を、より磨かなければとの危機感がある。
大手アパレルは、品質でも速さでもノウハウを向上させている。小回りを利かせた物作りはもはや、中小アパレルの特権ではなくなっている。中小アパレルが生き残るには、強みを磨くとともに、一層の効率化を進めるしかない。
ただ効率化を進めるうえで「日本の生産体制には無駄が多く、見直す必要もある」と指摘する。生地の規格もその一つ。「1マーク当たりの商品生産枚数は年々減少しているにもかかわらず、依然として従来の規格単位での生地の生産が多い」と言う。
一企業内の取り組みには限界がある。これからの時代は取引企業間や業界一丸となった取り組みがさらに重要性を増してくる。(高)
2009/11/17
恥ずかしい数字
岐阜のある中堅量販店のトップは、上期決算が増収減益になったことに対し「赤字決算が続出する中で(黒字は)健闘されているのでは」との質問に「目標の増益が未達では恥ずかしい数字」と言う。
4月に初出店した低価格SMの売り上げが当初予想より12億円も上回っていることも「余計な人件費や物流費がかさんだ。実験としては失敗だ」とも。量販店戦国時代に、モール型の大手SCを向こうに回し、じわじわと攻める食品主力のSM。計画通りに確実に結果を残すための“着実な攻め”に執着している。
その一つが同社の打ち出す“びっくり価格”。自社製造の18円コロッケがあるが、1日に18万個を売り上げる。商品を調達する仕組みやそのシステムの提供を事業化することも視野に入れる。大型店淘汰(とうた)の暗雲が立ち込める今、「食品を制する店が地域を制する」を旗印に足元から攻めるSMの動きが注目される。(津)
2009/11/16
値付け
「あそこの商品、割高なのよね」と話すのは、おしゃれ好きの知人。ステージに立つ職業なので、華やかなドレスやジュエリーなども定期的に購入している。モノと価格のバランスを見る目が肥えている女性だ。
割高感のある“あそこ”とは、セレクトショップも運営する、あるアパレルのこと。「自社の商品もだけど、特にインポート品にびっくりするような値段をつけていて、これ定価で買う人いるの?って聞いたこともあるわ」と話す。その会社が買い付けたのと同じ商品が、他の店でもっと安く売っていたのを、実は記者も見たことがある。
他社になるが、インポート品については記者も先日、あるジュエリーが現地では半値で買えることをネットで知り、驚いたばかり。インポーターの値付けに、少し疑問を持った。もちろん、利益あっての商売だが、少々高めに値をつけても「気付かないだろう」という認識なのか。消費者は、供給側が思うより敏感だと思うのだが。(維)
2009/11/13
ベトナムの元研修生
ベトナム・ホーチミンで、日本から帰国した元研修生・技能実習生と話す機会があった。彼らの開口一番は「あなたの会社はベトナムに来るか」。ベトナムに進出するなら雇って欲しいと言うのだ。外国人研修・技能実習制度で来日すると、再び日本では就労できない。せっかく身に付けた技能も、少しだけ話せる日本語も、生かせる場は限られている。
その一人、Tさんは「私たちはお金が目的で日本に行った。両親や姉妹を養わなければならない」と言う。ところが「日本では日曜日も働いたが(その分の)お金はもらえなかった」と悲しそうに話す。
不況の影響で研修を中断し、帰国を余儀なくされるケースが増えているようだ。稼ぐために来日した研修生にとっては死活問題だ。日本人では確保しにくくなっていた、縫製業などの担い手だった研修生を、調整弁にしている。研修制度の法改正が進められているが、根本から改善しようという業界の動きが見られないのは残念だ。(近)
2009/11/12
支持層の幅
「ダサいよ、デパートなんて。みんなそう言っている。おばさんと子どもの服ばっかだし」――。真保裕一の小説『デパートへ行こう!』に、娘のこんなせりふがある。父親にとっては、小さいころからの家族の思い出の場所。しかし、娘は「ダサい」と思っている。
百貨店で買い物をしない人は、10代後半から30代を中心に、結構いると思う。デパ地下や物産展で買い物をしたことはあっても、服を買った経験がない人は、知り合いにもいる。「買いたいものがない」イメージを持っているようだ。
服の購入場所が、ファッションビルやセレクトショップ、通信販売などと格段に増えた結果、特にティーンやヤングの姿は百貨店の店内では目立たなくなってしまった。また、家族連れの姿も、郊外型SCと比べると少ない。
こうした客層が楽しめる場にならないと、百貨店の購買客層の幅は、どんどん狭くなる。(勧)
2009/11/11
24カ月連続増収
10月も2ケタ減と苦戦する都心の百貨店で、OL向けのレディス「カリテ」が24カ月連続で売り上げを伸ばしている。03年の発売から一貫して消費者の求めるデザインのカジュアルパンツ企画を追求していることが快進撃につながっている。
業界では価格を下げるためにメーカーの原価率や百貨店の掛け率などが問題になっているが、カリテの快進撃を見ると、コスト削減や数式上の効率化だけでは表現できないファッションの付加価値の存在に気付く。
さらに感心するのは、随分前に流行したメタル糸使いの光沢素材を自らのブランドに合う表情に改良を重ねながら使い続けていることだ。素材メーカーも付加価値のある素材を長年使ってくれる方がコストを吸収してくれるから助かるだろう。
カリテのようなブランドは一昔前までは特別な存在ではなかったはずだが、こうしたブランドが市場から姿を消しつつある。効率追求だけではブランドの良さは訴求できないし、業界の発展もない。(真)
2009/11/10
ルックブック
セレクトショップから届く顧客向けのルックブックを見てショックを受けた。リーズナブルな価格のリアル服ブランドや協業ラインが中心で、先シーズンまでのイメージとだいぶ違う。紹介されている商品は1万円台から3万、4万円台が多く、確かに買いやすいのだが、失望してしまった。高くて買えないと嘆きつつ、こんなのが着たい、買いたいというあこがれが、これまでの消費を後押ししていたのだと気付く。果たしてこのルックブックは効果があるのだろうか。
実際に店頭に行くと、ファッションビルを中心に出店しているブランドの商品が目にとまった。確かにいい服だが、ここでお目にかかるとは。販売スタッフも、ベテランが減ったように見えた。
デザイナーブランドの低迷と価格意識の変化に直撃され、次の手、ということだろうが、この手段は違うと思う。もちろん“食わねど高楊枝”でいてほしいというのではない。消費者の心を動かし、デザイナーを励ます方法はあるはずだ。(赤)
2009/11/06
良いもの作れば売れる?
取材先で「良いものを作れば売れるというのは、うそだ」という話を聞いた。大切なことは、消費者がどこで買うのが一番便利か、という点にあると指摘する。商品を軸に考えるメーカーは、いつまでも同じ販売先にしがみついて、従来より良いものを安く売れば売れるという考えにとらわれる。しかし、それは一番大切な消費者の変化に気付いていないと言う。
要は、消費者にとって便利な購入システムを作ってあげれば、価格はあまり関係ない。例えば百貨店が便利なら、高くても百貨店で購入する。しかし今、百貨店も量販店も売り上げを落としているのは、不便と感じる消費者が増えているからではないか。その不便さを低価格品という対症療法でカバーしようとしているのが現状だ。
インターネットが普及した今、消費者は様々な購入チャンネルを得た。メーカーは、消費者がどのチャンネルで購入するのが一番便利かを考える必要がある。(史)
2009/11/05
やってはならぬこと
江戸時代、会津藩には「什(じゅう)」と呼ばれる教育制度があった。6~9歳の藩士の子弟を集め、小グループで基礎教育を行う組織だ。その中に「什の掟」というものがある。「弱い者をいじめてはなりませぬ」など7カ条の心構えを説いたもので、締めくくりには「ならぬことはならぬものです」という一節が来る。
景気後退、消費不振が深刻化するなか、様々な現象が生まれている。その一つが低価格化だ。ジーンズは690円まで下がり、まさかと思うが、「ワンコインジーンズ」の声すら上がる。低所得者の増加は厳然たる事実で、また、海外生産のレベルアップや世界的な消費不振で、製造原価が下がったのも事実。
ただ、やはりバナナのたたき売りのような今の状況は行き過ぎだ。政治の舞台でも「友愛」がクローズアップされている。今の価格では、供給業者か、消費者か、はたまた自らが泣く。社会的責任を問われるクラスの企業には、やはり、やってはならぬことがある。(太)
2009/11/04
夏のコート
ここ数年の秋冬コート商戦は、消費者の先買い比率の減少やセール時期の前倒し、天候不順の影響もあり苦戦を強いられている。
この市況のなかで、暑い最中の7月から直営店で約20万円の高額ダウンコートを展開し「今秋冬向けで、昨年対比30%増の販売で推移している」と気を吐くあるアパレルメーカーがある。同社は7月、8月の2回に分けて次シーズンに向けたコート企画を店頭でアピールし、顧客の購買意識の中に、同社の品揃えを認知させる。そして、9月に入って本格的な販売を展開し、成果を刈り取り、セール期突入を前にして、売り切る仕掛けだ。名付け“リフレイン販売”。「コートをタンス在庫に多く持つ消費者は、さらに新しいコートを欲しがる」「消費者は他のアイテムに比べて出費がかさむコートを先行して購買する」といった、独自のセオリーを生かした販売戦略。夏のコートが、冬の商戦を決する。(民)
2009/11/02
先行投資
トンネルの先がなかなか見えない。そんな中でも、元気がいい企業や業種・業態はある。ネット販売はそんな分野の代表的な例だろう。もちろん、この分野でも格差はある。しかし、先が見えない時だからこそ、本業の見直しだけでなく、将来の収益源となる新規事業へのチャレンジが必要だ。
新規事業に振り向ける金も人材もないという企業も少なくないだろう。しかし「次代の収益源への先行投資というだけではない。次代を担う人材への投資ととらえるべき。新規事業開拓の経験が人を育てる」とある専門店チェーンの幹部は言う。自身が20代で新業態プロジェクトに参画し、現在は数十店舗になった部門のリーダーだ。ここで育った人材が今また、新業態開拓の先頭に立っていると言う。
ネット販売に限らず、新規事業を担う人材はそうはいない。金も必要だが、それ以上に人材を育てる場を設け、育成の工夫や経験を重ねることが企業の将来をつくる。(監)
