繊研新聞掲載のコラム

 繊研新聞掲載のコラムです。随時更新しております。(別の月のコラムはコラムのトップページから移動してください)


提言/2009年

2009/12/07
 今こそ技術開発に支援を
 12月に入り円の急騰は一服しているが、11月27日には一時、1ドル=84円台に突入し、その後も80円台後半の値動きで、円高基調が続いている。
 思い出すのは14年前の円高だ。94年に1ドル=100円を突破すると、95年4月19日には80円を割り込んだ。主要国が円売りの協調介入を実施したことから、円は9月には1ドル=100円水準まで値を戻したが、この年を契機に生産拠点の海外移転が急速に進んだ。
 不況下での円高は今と共通する。日本はバブル崩壊からの“失われた10年”と呼ばれる長い不況の入り口にいた。当時は膨大な不良債権の顕在化で金融不安は広がっていたが、米国市場は好況で、今と違って自動車や家電などの輸出が日本経済をけん引していた。現在は途上国の猛追を受け、日本の工業製品の競争力は低下、しかも欧米市場はリーマンショック以降の不況から本格的に立ち直ったとは言い切れない。この不況を克服するのにまず必要なのは内需を拡大すること。膨大な貿易黒字を抱えた90年代にも言われていたが、欧米市場が冷え込む今こそ、個人消費を活発化させ内需を拡大することが求められる。
 不況で消費が低迷するとまず出てくるのが価格競争だ。低価格で購買意欲を刺激しようという試みはあらゆる分野で始まっている。しかし、消費者は価格だけを基準に選択しているわけではない。デザインや品質、目新しさ、使い心地など自分の基準で商品の価値を値踏みして、価格と照らし合わせる。低価格競争だけでは個人消費は盛り上がらない。購買意欲を刺激するのは技術革新であり、新しいデザイン、新しい工夫、新しい価値を訴えた商品だ。
 ただし、円高で吸収されているとはいえ、原材料は再び高騰に向かっている。一方で、小売価格は下がる一方だ。川上のインフレと川下のデフレのギャップを負担する川中には技術や新商品開発への投資余力は残されていない。収益性は悪化し、売り上げ低迷による企業規模の縮小が拍車をかける。それだけに研究開発を支援することが行政の大きな役割なのだが、行政刷新会議の「事業仕分け」によって、ものづくり中小企業製品開発等支援補助金の予算計上見送りなど中小製造業には厳しい判定が下っている。また、東京発ファッション・ウィークの予算が3分の1削減された。
 もちろん税金の無駄遣いなどあってはならないが、十分な論議もされないまま、効果が「検証されていない」「期待できない」と切り捨てていいのか。中小製造業の開発意欲が高まれば、消費者に新しい商品を提案でき、個人消費の喚起につながる。また、優れた商品で競争力があれば輸出に打って出ることも可能だ。仕分けの成果1兆6000億円というが、そんな可能性の芽も、国内製造業の復元力も摘み取ってしまった。
 不況を抜けた先に待っているのは過去とは全く違う光景だ。94年に18億点だったアパレル輸入は04年には35億点に倍増し、国内の織物生産は41億平方メートルから20億平方メートルに半減した。失われた10年を抜けて、我々が目にしたのは衣料品の供給構造のインフラとして定着した製品輸入と、縮小を続け、存続の危機に立つ国内の生産地の姿だった。今の不況の先には何があるのか。政策でこの状況を変えない限り、たとえ不況から回復したとしても、国内製造業の限りない衰退と、出口のない低価格競争しか見えてこない。

2009/11/02
〈提言〉 改めて「営業時間短縮」を
 新政権が、地球温暖化対策で「20年までに1990年比で25%削減」の温室効果ガス排出削減の中期目標を掲げたことで、改めて小売業に営業時間短縮の問題が突きつけられている。
 埼玉県は「深夜化するビジネススタイル・ライフスタイルの見直し」を重点施策に位置づけているが、県環境科学国際センターと温暖化対策課は10月、深夜営業店舗の営業時間短縮による二酸化炭素削減効果を検証するため、県内の深夜営業店舗で1週間連続して電力消費量の実態調査を公表。営業時間短縮による電力消費量(CO2)削減効果は9・8%と算出された。
 まとめでは「削減効果は相当大きな効果である」。さらに、「深夜化するライフスタイル・ビジネススタイルの見直しは、基本的に特別な設備投資無しに行える対策であり、その点からも効果を評価する必要がある」と消費者・小売業双方のスタイル転換を促している。
 日本百貨店協会は今年、同じ商圏で競合する店舗同士が総営業時間短縮に向けて協議する場を各地で設けてきたが、10月21日には初めて労働組合も参加する会議を開いた。
 同協会が実施したアンケート調査によると、約70%の店舗が、長時間営業が従業員の労働長期化に影響を与えていると回答。休業日を増やせば、労働時間や販売体制、従業員のワークライフバランス改善につながると60%超が答えている。温暖化対策に加え、従業員のモラール向上が顧客サービスに結びつけば業界の魅力向上にもつながる。
 今や大手GMS(総合小売業)など流通部会の組合員が44万人・全体の4割を占めるUIゼンセン同盟。産業の最大の悩みは「賃金が低く労働時間が長いため、優秀な人材が来ない」ことだという。アパレル部門にはまだ専門職があってモチベーションがあるというが、深夜まで営業しているSCに勤務する労働者となると、心身の「安全・安心」まで脅かされて、経営者の心配の種にもなっている。
 いつもやり玉にあげられるが、「営業時間を短縮しても冷蔵庫などは稼働させなければならず、削減効果は言われるほど多くはない」と反論するコンビニエンスストア。実は、こちらも長時間労働せざるを得ないフランチャイズ加盟店主らのワークライフバランス改善に問題があるようだ。
 売り上げの絶対額が上がれば上がるほど得をするディベロッパーやコンビニ本部。いったん立ち止まって温暖化対策と従業員らのワークライフバランス改善へ、一気に取り組めば社会的支持を得られるはずである。時代は「節約」「環境」へ大きくかじを切っているのだから。

2009/10/01
〈提言〉 ハード、ソフト一体で世界へ出よう
 小売市場の縮小が続いている。中でも衣料品の落ち込みは大きく、繊維・ファッション業界はいまだ明るさが戻らない。構造的な問題も抱え、繊維・ファッションは、衰退産業の代表選手のような悲観論さえ漂う。
 果たして、繊維・ファッションは衰退産業なのか。確かに明治初頭から1960年代までの糸、テキスタイル、縫製品を世界に売っていた“繊維大国”ではなくなった。国内の市場規模も、バブル崩壊を機に縮小している。日本経済が回復しても、市場規模がバブル期の水準に戻ることはないだろう。その上、ラグジュアリーブランドからファストファッションまで海外勢が押し寄せ、競合が激化している。
 しかし、目を世界に転じれば、繊維・ファッションはまぎれもなく成長産業である。人口増加に伴い、世界の繊維消費量は大きく増加している。今後も爆発的な勢いで、拡大に向かうことは間違いない。さらに、アジアなどの発展途上国、新興国は国民所得の増大に伴って、衣服への要望が、より上質なもの、おしゃれなものへと変化している。世界の繊維市場における量の増大と質の向上は明らかである。ここに日本の繊維・ファッション産業復活の道があるのではないか。
 日本の繊維・ファッション産業は長い歴史の中で、ハードとソフトを培ってきた。YKKや島精機製作所のように、世界標準となるようなアパレルパーツ、機械メーカーもある。合繊の染色後加工では、小松精練をはじめ、日本の技術が世界でも群を抜く。パリの素材展プルミエール・ヴィジョンでは日本企業のブースは来場者であふれる。素材開発力では今でも世界をリードしている。
 一方、ソフトの分野では、70年代から80年代にかけて高田賢三、三宅一生、川久保玲、山本耀司らがパリ・コレクションで旋風を巻き起こし、日本のファッションの水準の高さを示した。今、日本ファッション・ウィーク推進機構(JFW推進機構)が中心となって、改めて日本のファッションを世界に発信する動きを強めている。可愛らしさを強調した日本のファッション、ストリートファッション、文化は世界から注目を集めている。ハード、ソフトともに世界で戦う土壌があるということだ。
 アジアの国々に比べれば、日本が高コスト構造ではあることは間違いない。為替面でも輸出を促進する環境ではないことも確かだ。コストの一面だけでとらえれば、競争力はない。
 しかし、ハード、ソフトが一丸になることで、他の国にはない高付加価値を生み出すことができるはずだ。何よりも大切なのは「グローバルで競争し、成長する」という意志ではないか。繊維・ファッション産業が一体となり、戦略を持って世界に打って出れば、道は開けるはずだ。今ならまだ、その力が残っている。