繊研新聞掲載のコラム

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提言/2010年

2010/12/06
 嫌われる日本オーダー ウイン・ウインのビジネスモデルを
 中国での縫製スペース、労働力不足が一段と深刻になっている。繊研新聞でもたびたび報道しているように、中国の縫製工場での人件費が高騰、それでもワーカーが集まればよい方で、必要人員の半分も人が集まらない工場もあり、生産スペースはタイトさを増している。
 その一方で、中国の内需は順調に増加傾向を示しており、OEM(相手先ブランドによる生産)を行う縫製工場では「品質と納期に厳しく、しかも小ロット低工賃の日本品を作るよりも、中国企業の内需向け受注を受けた方が有利」との判断も働き、「日本離れ」が加速している。
 中国でOEM生産を手掛ける商社では「9月からCMT(付属込み加工賃)を引き上げ、何とか生産スペースを確保した」「縫製工賃は20%ほど上昇、利益を圧迫している」など厳しい声が上がる。
 中国縫製スペース不足への対応として「チャイナ・プラス・ワン」の動きも一気に加速している。EPA(経済連携協定)の広がりなども背景に、タイやインドネシアを訪れるバイヤーは昨年後半から急増。現地の駐在員は「前年比で2倍、3倍の客が訪問して手が回らない」ほどの状況だ。しかも従来のような「視察ではなく、真剣にオーダーを置きにきている」バイヤーがほとんどで、縫製スペース確保難が実感できる。専門商社中心に「ベトナム工場増設」が相次ぎ、バングラデシュでの拠点作りやミャンマー生産開始の情報も日々飛び込んでくる。
 しかし、必ずしも日本からのオーダーが歓迎されているわけではない。
 インドネシアの縫製業者協会の幹部は「日本企業は中国と同じコスト、同じ納期、同じ品質、同じロットでの生産を求めてくるがこれは無理な話だ」と話す。しかも「欧米の大手ユーザーと違って、原料調達も縫製指図もすべて商社を通じてとなるため、商社マージンも加わり、縫製工場の受注条件はさらに悪くなる」とも。
 タイやインドネシアで縫製を手掛ける日本企業の子会社でさえ、「実を言うと本社からのオーダーは受けたくない。そもそも90年代初頭まで東南アジアでの生産を模索していたが、より近くより安価な中国の台頭で、日本からのオーダーは激減。現地法人は必死で欧米や地元の販路を開拓して収益構造を作ってきたのに、中国でコストが合わないからと戻ってきても中国と同じ工賃で採算が合うわけはない」と苦言を呈するのが実情だ。
 低価格が売りの欧州の大手SPAは生産で「15カ月ルール」を持ち、早期にスペースを契約することで安定生産を維持しているという。低コストなら低コスト、小ロットなら小ロットで、それを受ける生産工場も利益を残せる仕組み、「ウイン・ウイン」のビジネスモデルを作り上げない限り、縫製工場の日本離れは止まらない。
 日本の発注側が、今の生産現場の現状をしっかり理解し、条件整備に努めないと「嫌われる日本オーダー」を受けてくれる工場は減っていくばかりだ。それは、アパレル、SPA、小売店にとっては店頭を維持できない事態にもつながりかねない。

2010/10/26
 展示会の活性化 商談の質、内容を高めよう
 国内の合同店や個展で来場バイヤーの減少が目立っており、気がかりだ。
 近年、売れ行きの低迷やSPA(製造小売業)の広がり、売り場のオリジナル作りなどが重なり、仕入れと展示会をめぐる状況は様変わりしている。売り先の仕入れ姿勢は毎年、慎重になり、一度に買い付ける数量や受注金額も減っている。仕入れの直近化も強まって展示会の開催頻度は増えるばかり。その結果、メーカーは短期の企画・生産に追われ、商品力低下の一因ともなっている。加えて倒産や廃業にともなう取引先の減少も追い打ちをかけており、売り先の奪い合いからOEM(相手先ブランドによる生産)やODM(相手先ブランドによる設計・生産)まで対応するメーカーが増えて展示会の変質が一層、加速している。
 「店頭の売れ行きが悪く、先が読めないので仕入れを抑える」と、仕入れが慎重になるのは仕方ないが、「経費の削減や販売効率の追求で展示会にバイヤーが来ない」事態が広がっている。バイヤーの人数が減って外に出られない事情もあるようだが、魅力的な商品を発掘し、優秀なクリエーターと出会うチャンスを自らなくすことはバイヤーの自殺行為といえる。情報を基に時代の先を読む力を常に養い、肌で感じるように感性を磨き、体験するといったバイヤーの基本は店頭と展示会で培われるはず。そこが失われているのだ。
 メーカーが展示会に活気を取り戻そうと、どれだけ作り手が提案に力を入れ、発注しやすい仕組みを工夫しても、今の来場バイヤーの減少に歯止めがかからなければ活性化は難しい。
 ただ、一方で作り手側も展示会の考え方を改める必要がある。受注数量や来場者が多いにこしたことはないが、成熟市場を見越すと、それを最優先すべき時期は過ぎたといえる。何万人が来場する大規模な展示会でもブースの前を通る1人のバイヤーの足を止められなければ成約にはつながらないのだから。変わって今後、重視しなければならないのは商談の質と内容だろう。展示会はサンプル商品をはさんで作り手と売り手が話し込み、質感や価値観を確認する場であり、商品に込められた作り手の熱い思いや、こだわりを売り手が理解する場である。同時にそこで売り手が得た情報や確信を自店の顧客に向けて醸成して提示できるまで一緒になって作り上げるのが展示会の役割でもある。作り手の思いを伝えるだけならインターネットでも足りるが、プロの実感は説得力を持つ。
 展示会の惰性を見直すことも必要だろう。そこで海外展への参加が好機になる。グローバルステージに挑戦するには、わかりやすい企画書や企業・ブランドの説明、契約書などの準備はもちろん、戦略目標の設定、事前の様々な情報収集、展示会の運営・演出、発信、バイヤーやプレスへのアプローチ、終了後のフォロー、場合によっては企画サイクルの変更など、改めなければならない点は多い。
 海外でなくても国内の合同展でも新しい動きは起きている。旧来の売り先の開拓一辺倒を超えて「来場者自身が付加価値を感じられる仕掛けや提案、情報の提供」を掲げた合同展や、「展示会をテナントとディベロッパーの出会いの場にしよう」とディベロッパーのブースを設けた合同展が現れた。それらにあえて出展するのも展示会を考え直すきっかけになるかもしれない。
 ともあれ、展示会に足を運ばなければ、新しい商品やブランドとの出会いはない。ネットワークも広がらない。展示会から新規ブランドが育ち、好調ブランドが巣立っていく。それが売り場の多様な品揃えを実現し、売り上げを押し上げる。消費者にとっても常に新しいブランドや選択肢が増える。そうした循環を早く取り戻したいものだ。

2010/07/20
 グローバルステージ 挑戦しFB進化につなげて
 中堅中小のアパレルメーカーや専門店で、中国をはじめとした海外市場の開拓に乗り出す動きが目立っている。一方で、7月1日からスタートした中国人観光客のビザ取得緩和で、“内なる海外市場”への期待も高まっている。こうしたグローバルステージへの挑戦を日本のファッションビジネス(FB)の進化につなげたい。
 これまでは、日本のファッションの潜在力や魅力を十分に生かしきれていなかった。海外の若者の間で「カワイイ」や「ゴスロリ」「コスプレ」の人気に火がついたことに業界が気付き、反応するまでに時間があったのは象徴だ。理由は日本市場でマイナーだったために理解が及ばず、受け入れにくかったことや、インターネットによる情報時代への認識の弱さ、海外市場で売るのは難しいとの根強い固定観念などが考えられるが、チャンスに機敏に対応できなかった。
 カワイイに代表されるジャパンファッションの世界的な人気やアジアの経済成長力が勇気を与えてくれている今、広がっている条件をつかまえるために求められるのは具体的な行動だ。ただ、闇雲に動くのはムダになる。グローバルステージに立つためにはまず、準備が必要だ。例えば、メーカーが海外展に参加する場合には企画サイクルの変更や商品説明の見直し、売掛金の回収や物流の仕組み、貿易実務体制の完備、英語のホームページの開設などが挙げられる。事前の市場調査や視察、商習慣などの情報集約も欠かせない。いずれも商売の基本だが、それを確固として築いている例は数少ない。
 行動は次の課題を提示する。中国人旅行客の接客では「中国語の話せる販売員」の配置や、案内表示などのレベルから、次に「商品や売り場の情報、接客力を身に付けた中国語の話せる販売員」の確保・育成などに課題は先に進む。ともあれ、条件を残らずくみ上げるために様々な知恵や工夫を速やかに行動に具現化し、積み上げていくことだ。
 海外戦略では経営トップの構えと判断も大きなカギだ。「(グローバルの)波に乗る」「市場の海外化への対応」、「とりあえず店を出してみる」「反応がよければ」といった中途半端な取り組みや安易な構えで成功する可能性は低い。「国内市場が人口減や少子高齢化で先行きが厳しいので海外へ」と短絡的な発想でも通用しない。必要なのは「グローバル企業に飛躍するためのステップ」と、規模の大小に関係なく多くの経営者が持つことだ。かつてのインターナショナル時代は日本式ビジネスを国境を越えて持ち込み、展開するため、資本力や仕組みを確立した大手しか海外戦略はできなったが、グローバルの今はブランドやショップの魅力、人気が資本力を上回る時代である。経営者自らが責任を持って信頼する幹部候補クラスの人材を必要最低限の人数で配置し、スタッフを信頼して仕事を任せ、育てる。そうした本気度が海外では国内以上に問われる。
 政府は新成長戦略の中でファッション、デザイン、コンテンツ、文化、観光などをクールジャパンとし、マンガも含めたコンテンツビジネスで2兆円、訪日外国人2500万人による経済波及効果10兆円、新規雇用56万などと試算する。その達成の可否は定かでないが、生産でも売り場でも海外を無視できないところにある今こそ、あえてグローバルステージに立った改革が急がれている。

2010/05/21
 日本市場の行方 欠かせない国の成長戦略
 人口減少が始まり、成熟から縮小マーケットに転じた国内だけにしがみついていては未来はない、アジアを一つの商圏ととらえ、さらにアメリカ、ヨーロッパへもという方向性はその通りだ。業種を問わず中国内販に関心が高まっていることも、前向きでいいだろう。輸入一辺倒だったこの業界に、真のグローバル企業、ブランドが出てくることは期待したい。
 けれども、ちょっと待ってもらいたい。国内がダメだから海外へというのは、わかりやすい図式だが、日本のマーケットは将来も見込み薄ということでいいのか。
 日本の実質GDP(国内総生産)はこの10年間ほとんど増えていない。10年前の99年と比べると09年度(見込み)は7・6%伸びているに過ぎない。同じ期間で調べてみると、お隣りの韓国は1・5倍、中国にいたっては2・5倍である。日本と同じように先進国と言われる、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、オーストラリアなどほとんどが少なくとも2ケタ以上の成長を確保している。各国とも08年のリーマンショック以降の不況があったにもかかわらず、日本だけが特別に低い成長率にとどまっている。衣料品市場縮小の要因になっていることは間違いない。
 もう一つの重要な指標、雇用者報酬の推移はさらに日本にとって厳しい。日本以外の国はGDPと同じような伸び率となっているのに対し、日本はこの10年で大きく下がっている。派遣労働をはじめとする非正規雇用が広がったのが大きな理由だ。07年度から毎年雇用者報酬は下がっており、09年度もマイナス3・9%と発表されている。
 日本が世界から見て異様な低成長の国に成り下がったのは、国策の問題に他ならない。7月には国政の行方を決める参議院選挙がある。新党の乱立やタレント候補にニュースが集中しているが、最も大事なのは、日本が再び成長、国力を上げていく指針、方策を明らかにすることではないか。
 成長戦略の上で欠かせないのは人口問題だ。日本は08年から明確に減少傾向となり、市場縮小が現実のものになりつつある。この問題でも日本は明らかに遅れている。
 フランスは出生率を毎年引き上げ、08年は2・02とヨーロッパ最高になっている。イギリスにしろアメリカにしろ出生率は上げている。日本も05年の1・26ショックがあり、その後08年は1・37まで戻したが、これはたまたま団塊ジュニア世代が出産期に入ったことによる。このままでは人口減少に歯止めはかからない。
 フランスが人口を回復させたのは保育サービスの充実が大きいとされている。日本では保育所待機児が2万5000人以上いるとされ、認可保育所の定員拡大という程度で、抜本策がない。小学生になれば学童保育という別の問題も出てくる。
 人々の働き方と保育という問題は企業、事業主にも大きな責任がある。05年から施行されている次世代育成支援対策推進法は仕事と子育ての両立のため、雇用環境を整備するための法律だ。その行動計画が国によって認定されると「クルミン」マークを使うことができ、企業のイメージアップに活用できる。
 来年4月からは従業員101人以上300人以下の中小企業も具体的な行動計画を作成、都道府県労働局に届け出る義務が生じる。100人以下の企業も努力義務がある。企業として日本の成長戦略に貢献できることは少なくない。

2010/04/01
 FBの扉を開けたあなたに
 綿花や羊毛、あるいは人工的に合成された重合体――洋服の元をたどっていくとこうした原料に行き着きます。繊維原料が一着の洋服になるまで、サプライチェーンという長い鎖に乗って旅をします。サプライチェーンはいくつもの工程の連鎖です。工場から工場へ、人から人へと手渡され、原料は糸になり、糸は布になり、布は縫われて製品になり、ようやく商品として店頭に並び、お客に販売されます。あなたが手にした洋服は、たくさんの国のたくさんの人たちを経てあなたの元に届けられたのかも知れません。一着の洋服を通して、多くの人たちとつながっているのです。
連鎖の一員に
 数百円のTシャツも、100万円以上もする高級ブランドのスーツも、あらゆる洋服は着る人を満足させるために作られています。一着にかかわった多くの人たちは、着る人を満足させるために最善の仕事を尽くし、次の人に手渡します。そしてまた、次の人は最善を尽くし、次の次の人に手渡します。すべての人が最善の仕事を果たし、一着の洋服が仕上がります。サプライチェーンとは着る人の満足感を最大にするための最善の仕事の連鎖です。
 FB(ファッションビジネス)において企業の価値基準は何でしょうか。何のために企業は存在しているのでしょうか。それは、消費者に支持される洋服を提供しているかどうかです。他者よりも多くの支持を集めた結果、「勝ち組」と言われることはありますが、勝ち負けはあくまで結果。勝つために洋服を作っている企業はありません。消費者に満足を届けることがFBの使命なのです。サプライチェーンもそのために存在しています。
無限の可能性
 会社の規模や歴史に関係なく、一着の洋服で評価されるのがFBの魅力です。また個人であっても情熱と行動でFBを動かすことができます。実際、創業から10年、20年という多くの若い企業がアパレル業界の上位に食い込んでいますし、一時期、勢いをなくした企業であっても、巻き返して成長軌道に乗せたケースも珍しくありません。消費者に支持される洋服を提供できるかどうかがFBにかかわる企業の基準。その基準を満たせば、可能性は誰にでも平等に広がっています。
 人と人とをつなぎ、着る人を豊かにするのがFBです。日本で1年間に販売されたアパレル製品の総額は9兆8000億円。10兆円は割り込みましたが非常に大きな市場です。FBは年間に9兆8000億円の満足感を提供しているのです。
 繊維・FBは産業として長い歴史を持っていますが、他産業と比べると成長率が低く、スポットライトを浴びることは少ないかも知れません。しかし、衣食住はいつの時代も人間にとって不可欠です。その不可欠な衣の世界で、あなたは今日から仕事をすることになりました。あなたがサプライチェーンで結ばれた多くの人たちを感じ、着る人に豊かさを届けたいと思い、努力を惜しまなければ、可能性は無限に広がり、未来は輝いているのです。

2010/03/01
 本末転倒にならぬようアウトレット
 日本で初めて計画段階からアウトレットモールとして開発された大阪市鶴見区の「ブロッサム」(現・三井アウトレットパーク大阪鶴見)が開業15年を迎える。曲折はあったが、この間2大ディベロッパー中心にモール建設が進み、現在は全国に30カ所以上の施設が運営され、最も集客力、競争力のあるSCとしての地位を確立してきた。開発予定もあり、地方では経済の活性化や雇用の受け皿確保を目的とした誘致もあちこちで見られる。
 ところが、アウトレットモールに出れば売り上げが見込めるということに乗じた動きが、このところ目立ってきた。在庫ではなく、アウトレット用に作った商品を売り場に交ぜて売るということは、相当以前から見られた。さらに最近は定価販売のレギュラー店の売れ行きが芳しくないことから、アウトレットそのものを収益装置としてとらえ、利益が出ることを前提にした商品開発、店舗運営が表に出てきた。
 元々のブランドより少し価格を下げ、原価も抑えたアウトレット用サブブランドを考えているところもある。セレクトショップのアウトレットでは、取引メーカーの商品を在庫リスクのない消化仕入れ契約で入れているところもあると聞く。欠品が出ないようメーカーは頻繁に商品を補充するから、よく売れるのだという。こうなると、在庫処分としての役割が飛んでしまい、本末転倒ということになる。
 アウトレットモールは80年代アメリカで生まれ、ブランド品が安く買えることで瞬く間に支持を集めて成長した。都心から離れた異空間のような場所に、著名ブランドがずらりと並び、ニューヨークなど大都市ダウンタウンから直行バスも出ていた。しかし、アウトレット専用商品の問題が消費者にも知れるようになり、成長期が終わり、成熟期に入っている。
 日本で定着し出したのはバブル経済崩壊後、「失われた10年」と形容される90年代後半の景気低迷期だ。サイズや色柄は揃っていなくても、探し出す楽しみ、何よりも財布を気にしなくてもショッピングが楽しめるという、人々の根源的ニーズを満たして浸透していった。
 日本のアウトレットモール開発に大きく貢献した三井不動産は、業界にブランドビジネスでのアウトレットの必要性をアピールし、関係者を本場の施設に招待するなど相当苦労して、ブロッサムのオープンにこぎつけた。志を曲げることなく本物のアウトレットモールを目指した。
 出店サイドの意識も変わり、さまざまな有力ブランドが揃うようになり、飲食やアメニティーなどの機能も加えて、SCとしての力を増していった。昔は百貨店で一日遊ぶというイメージがあったが、今は一日過ごすならアウトレットモールが一番いいと思っている消費者がかなりいるだろう。
 これだけ成長したSCだから、物が売れない時代に、アウトレットモールで何とか収益を上げたい気持ちは分からないでもない。しかし、今の消費者は敏感に変化を感じ取るだろう。「物の質に比べて割安感がない」「付いている値段は安いが、品質も落ちる」といった評価が広がれば、どうなるか。アウトレットで支持を失えば、元も子もなくなるという事態も考えられる。
 今一度アウトレット本来の役割をブランド、企業経営の中に位置づけて、レギュラー店に磨きをかけることに注力すべきではないか。

2010/02/15
 カシミヤの不当表示根絶を
 カシミヤの不当表示が後を絶たない。大手アパレル企業や百貨店、ネット通販企業などで表示と実際のカシミヤの混率が異なるなどの問題が表面化している。中にはカシミヤ製品とうたいながら、まったくカシミヤが含まれていなかったり、すべてアクリルだったケースもある。繊維製品は食品と違って、健康被害に直結するものではないが、こうした問題が頻発すれば業界の信頼が揺らぎかねない。そうでなくてもさらなる低価格化と、その実現のために生産地の再移動や原料調達ルートの見直しが進み、不適切な商品が入り込むスキが広がっている。業界をあげて不当表示を排除する体制作りが求められる。
 カシミヤ・キャメルヘア工業会(CCMI)の活動もあって日本でのカシミヤ製品の不当表示は08年以降、大幅に減少したが、根絶されたわけではない。不適正な製品が再び拡大する下地は十分にある。繊維特性がウールに近く、なおかつ価値の高さが認知された高級獣毛であることがカシミヤ不当表示の根底にある。100%と混紡品の違いは判別できても、混紡品の混率の違いまではプロでも判別できない。綿羊絨(中国土着のヤギの毛)やヤクなどのカシミヤとの差異が出にくい原料も出てきた。カシミヤ原毛はウールの10倍以上、1キロ当たり8000~1万円で取引されており、混率を下げ、ウールや他の獣毛に置き換えれば、原料コストは低減される。
 カシミヤの不当表示問題は国内繊維産業の疲弊と密接な関係にある。かつて、紡績やテキスタイルメーカーが力を持っていた時代は、原毛を直接調達し、糸から製品まで国内分業で生産することができた。しかし、紡績などが衰えるとともに国内企業の関与は大きく減少し、ユーザーは海外企業との取引を増やしてきた。原毛から製品までどのような経路をたどって生産されたか分からぬまま仕入れるケースも多い。国内分業が果たしてきたチェック機能を海外の生産体制に期待することは難しく、信頼性の確保という国内取引ではありえなかった課題に直面することになった。すべてが善意の取引先とは限らず、チェック機能の緩さが不適切なカシミヤ製品の流通につながっている。
 国内企業の自衛策はもちろん必要だ。サンプルが適正であっても現物も適正とは限らない。現物の抜き取り検査は必ず行うこと。また、原毛相場や生産地の事情、生産工程まで熟知し、その上でコスト削減について話し込むならまだしも、一方的なコスト削減要求と相手任せのコスト低減策は不正の温床になりかねない。原則は信頼できる相手と取引することだ。
 その上で、中国などの原産国と日欧米などの連携で適正なサプライチェーンを構築することが求められている。原毛から製品までの工程が外から見えない“ブラックボックス”では信頼性を欠く。明確なトレーサビリティーを説明できなければ消費者に信頼を訴えることができない。まずは原毛から製品まで各工程を“信頼の連鎖”でつなぐことだ。

2010/02/01
 まちづくり・再生を進めよう
 長引く不況の影響は地方へ行くほど深刻で、地方経済を疲弊させている。地方の多くは、経済対策で手いっぱいで、課題の中心市街地活性化事業も先の「仕分け」で削減されるなど、士気が上がらないようだ。それでも「放っておけばよいものでなく、粛々と進めている」(日本商工会議所)。現に、国から活性化事業を認定された自治体は92に増えた。
 しかし、これから予定される百貨店や量販店の店舗閉鎖で、該当地域の中心部は居住環境が悪くなる。生鮮3品を扱う店舗がなくなれば、高齢者は一瞬にして“買い物難民”に。百貨店がなくなれば、ファッションブランドが消えるだけでなく、これまで築いた地方文化の有力な担い手がいなくなる。こうした事態を避ける意味もあって09年8月に地域商店街活性化法が施行され、地域住民のニーズに応える商店街の取り組みを国が補助することになった。ファッション事業に携わる人は、こうした活動へ積極的に参加してほしい。
 コンパクトシティー確立で有名な青森市。昨年、市長が交代して、活性化事業は予算が減額された。市内で婦人服専門店を経営するメゾンの三上孝会長は、商議所の商業政策委員長として、まちづくりに取り組んでいる。主に中心部の周辺商店街に「力を合わせて、新しいきずなをつくろう」と呼びかけるのが仕事だ。以前から「チーム青森」のTシャツを手がけるなど、地域とファッションの融合にも着目しているが、通常の活動は「ファッション屋ということにこだわらず、大きな目線でやった方がいい」とアドバイスする。
 これまで唯一、成功しているとさえ言われる富山市。SC協会に加盟して商店街のSC化を推進する中央通商栄会の理事長を務めているのは、エトアールマルゼンの黒田輝夫社長だ。「地域が良くなれば、日本は良くなる。まちづくりは国づくり」と訴えている。
 従来、対立関係と言われた郊外SCにも、旧中心市街地が完全に衰退したような地域では、新たなまちづくりのコミュニティー機能を担うべきという期待が出てくるようになった。例えば、東京多摩地域にあるイオンモール日の出で開かれる成人式の出席率は、全国でも高いことで有名だ。隣近所のきめ細かな付き合いとは違って、細いきずなで広く多数を結ぶコミュニティーだが、とかく孤立しがちな現代社会にあって、果たす役割は大きなものがある。
 少子高齢化が進む中でのまちづくり・再生は、コミュニティー機能や文化の継承よりも、孤独死や自殺、犯罪の防止にまず役立つという悲しい現実がある。「商店街が元気であることが不可欠」(桑島俊彦全国商店街振興組合連合会理事長)なのだが、後継者が育たない、ましてまちづくり活動などには出てこないという悩みは深刻だ。
 中高年の専門店経営者がまちづくりに飛び回る一方、近くのオフィスにこもりネット販売で驚異的な売り上げを弾き出す青年経営者もいる。全国が商圏の経営者に、地域やコミュニティーの認識はないのだろう。接客・サービスを通じて育まれる顧客との友好な関係。ネットでは得られない人と人が交わる満足感を、ファッション小売業に携わる人は大切にしてほしい。

2010/01/04
 企業、個人も本気でグリーンファッションを  昨年末に開かれた第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)では、京都議定書に次ぐ20年までの新たな目標が議論された。これを受けてファッション分野でも真剣な取り組みが求められている。
 衣服は環境負荷の塊だ。その生産・流通・販売には大量の水とエネルギー、化学薬品が使われる。例えば、世界の繊維市場の4割を占める綿は1キログラム(ジーンズとTシャツ2点に匹敵)を栽培するのに使う水は2万リットルを超える。農薬使用量の多さも目を引く。Tシャツ1枚(150~200グラム)にはほぼ同重量の農薬が必要とされる。染色・仕上げ工程では服になる総消費エネルギーの75%、化学薬品の65%、水の85%が使用される。ウールは過放牧が起こす羊のゲップが温暖化の一因になるといい、ヘンプやビスコースやリヨセルなど環境負荷の少ない素材を使っても、海外での生産ならば輸送や物流でエネルギーを消費する。トレンドや流行によって商品のライフスタイルが短くなり、低価格品がはんらんすると大量廃棄につながる。さらに売り場での演出、購入後の洗濯と、ファッションビジネスはどの段階でも環境問題と深くかかわっており「アパレルで100%のグリーン化は不可能」とさえ言われる。
 しかし、難題であっても、もはや環境問題を避けて通ることはできない。まず大切なのは知ることだ。ロハス先進国の日本は環境意識が強いとされるが、「オーガニック素材ならばいい」「化学染料は悪い」「産業用ヘンプもマリファナの一種」など不十分な理解からの誤解は多い。認証基準や認証機関の内容などやや複雑だが、『グリーンファッション入門』(田中めぐみ著)などで正しい知識を得ることが先決だ。依然として誤解も目立ち、テイストや機能性と同等に考えたり、マーケティング手法だとの見方が今なお存在する。
 正しい知識とともに必要なのはビジネス概念の転換だ。大量生産・大量販売・大量廃棄、そして低価格競争という現在のビジネスモデルは永遠ではない。もはや商品を作って売るという一方向のビジネスサイクルは矛盾に満ちていることに消費者も気付いている。グリーンファッションは価格が高く不況に弱いなどと、収益面だけで考えてはならない。先行するグリーンファッションブランドが広告費や宣伝費を設けず、寄付や顧客との信頼投資としているように構造から見直すべきだ。
 グリーンファッションは見ただけでは分からない付加価値である。デザインや色柄は消費者がお気に入りを選べるが、グリーンファッションは消費者の興味や生き方と共鳴し、深い理解に至らなければ「好き」とならない。伝えること、訴えることを強めれば、急速に高まっている客の環境への関心を引き出せるはずだ。
 オーガニックコットンの生産量は07年で前年比53%増。その製品市場も05年に5億8000万ドルだったのが11億ドル、20億ドル(うちアパレル85%、インテリア関連10%、日用品5%)と拡大し、08年見込みでは35億ドルと激増した。しかし、いまだ世界のコットン市場に占めるオーガニック比率は0・2%にとどまっている。今後の発展も一直線ではないだろうが、「環境に配慮した、おしゃれな商品の開発」「環境負荷を減らした生産、流通、売り場の実現」の先には新しいファッション市場の形があるに違いない。