素材を学ぶ《ウール−8》
2000/05/23
フェルト−「縮む弱点」を生かした製法
ウールは縮む。しかし繊維自体が縮むわけではない。屋外で飼育されている羊の毛は、雨に打たれ雪にさらされても伸び続けていく。ウールが縮むには条件が必要だ。繊維をそろえてから、つまり糸や布の状態にしてから、水分・熱・力を加えたときに初めて「縮む」のである。
ウール繊維の表面は「スケール」と呼ぶうろこ状の皮質で覆われている。このスケールを整然と並べるために長い製造工程を通すのだが、水分・熱・力が加わると、その並びが崩れてしまう。もみ洗いがその典型である。崩れた並びのまま乾燥するとスケールの並びが元に戻らず、縮んだままの状態になる。これを「ウールのフェルティング」(フェルト化)と言う。このウールの弱点を生かした製法が「フェルト」である。
フェルトがいつごろから実用化されたのか確たる資料はないが、羊とウールが重要な役割を果たしている旧約聖書の中には、ノアが方(はこ)舟で大洪水から家族と動物を守るうちに、羊から落ちた羊毛が踏み固められて敷物になっていた、という話が登場する。ヨーロッパの各地には中世の僧が靴の中敷きにウールを詰めて歩き、フェルトの製法を発見したという逸話が数多く残されている。
「フェルト」と分類される製法は「プレス(圧縮)」「織り」「ニードルパンチ」の三種。このうちニードルパンチは他の繊維でもできるが、プレスと織りはウールならではのもの。
プレスフェルトは糸を紡ぐときと同じように、洗い上げた羊毛を繊維が平行になるように引きそろえて毛の膜を重ね、蒸気で蒸してから、加熱した鉄板で円を描きながらもむ。この状態で酸性液かアルカリ液に漬け、前後左右、上下から衝撃を与え、固めていく。主として資材用だが、どんな形にも切って使えるのでコートなどに利用する場合もある。
一方、織りフェルトは、いったん織物にしてから強度の縮みを加える。これによって表面の毛羽が絡み合い、密度の高い独特の表面感が生まれる。有名なチロル・ローデンがその代表だ。フェルトではないが、織物のフラノやミルド仕上げはその応用である。
帽子にもフェルトは欠かせない。編んでからフェルト仕上げをする場合もある。
(ザ・ウールマーク・カンパニー業務統轄部長=大内輝雄)
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