FB基礎講座/宝飾編
2001/09/11
《ジュエリースタイル−8》
エナメル−ほっとするような質感
数あるジュエリー技術の中で、エナメルほど私たちの心にしっとりした安心感を与えるものはないのではないでしょうか。エマーユ、七宝、琺瑯(ほうろう)などともいわれ、基本的には、金属酸化物を含むさまざまな色彩のガラス粉末を金属などの表面に焼き付けたものをいいます。
エナメルの起源は古く、古代エジプト、メソポタミア時代までさかのぼります。また歴史的にはルネサンスの十四世紀と十九世紀に流行を見ます。ルネサンス期には、金細工の分野で有名なイタリアの作家、チェリーニがエナメルを使った作品を多く残しました。
ジュエリーに用いられる、代表的なエナメル技法としてはリモージュ、プリカジュール、スイス、ギヨシュなどがあります。またエナメルを得意とした、日本人にもなじみのあるジュエリー作家には、ルネ・ラリックやカール・ファベルジェ、ルイス・C・ティファニーなどがいます。アール・ヌーボー期を代表するラリックは「プリカジュール・エナメル」の技法を多用しました。つい先日まで上野で行われた「アール・ヌーボー展」で、ラリックの「蜻蛉の精」という作品をご覧になった方もあると思いますが、この技術は、エナメルが施された部分の裏面に金属がなく、ちょうどステンドグラスのように透けて見える技法です。
ここに掲載のブローチは、ギヨシュエナメルといって、金属の表面に美しい模様を彫り込み、その上にさまざまな色彩の半透明の七宝をかける技法のことです。彫りの深さにより色の濃淡が生まれ、十八世紀には細かいパターンを手彫りで行っていましたが、十九世紀末にはエンジンターンと呼ばれる機械彫りが主になりました。旋盤を用いて繰り返しのパターンがさざ波のように浮き出して美しい模様を描きます。“イースターエッグ”の製作者として有名な、帝政ロシアの代表的ジュエリー作家、ファベルジェが最も得意とした技法です。このようなエナメル技法を使ったジュエリーが、現代のジュエリーに見られないのは、本当に悲しいジュエリー業界といえます。
(資料協力=ボンドストリート/増渕邦治=宝飾品評論家)
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