デザイナーの思い伝える“情熱接客” | 繊研plus

デザイナーの思い伝える“情熱接客”

  • 2016年8月11日 0時46分更新

ヨシオクボ①

【販売最前線】三越銀座店「ルプレイス」のスタイリスト育成術

若手販売員が楽しく主体的に実践

 

 スタイリスト(販売員)は、デザイナー、ブランドの伝道師であれ――。

  ネットに情報があふれ、スマホで簡単に買い物できる今、販売員に求められる役割の一つは、ブランドの背景やデザイナーの思いといった〝情熱〟を伝え、客の心を動かすことにある。そうした「情熱接客」を指針にスタイリストを育成しているのが、三越銀座店で東京ブランドを揃える自主編集売り場の「ルプレイス」。取り扱いブランドは約50、スタイリスト約45人の9割が入社5年以内の若手が占めるが、日々の業務や売り場を工夫することで、全員が情熱接客を実践している。

(藤川友樹)

 「コーヘンは山形の工場でオリジナルの糸を使い、一点一点専用の機械で…」「ファセッタズムのポケットが蛍光色のコートは、デザイナーの落合さんが冬の街を明るくしたいという思いで…」──。ルプレイスではほぼすべてのブランドで、ストーリーから、モノづくりのこだわり、デザイナーの思いまでを接客で伝えている。ブランド直営店なら当たり前ともいえるが、扱うブランド数が多い百貨店自主編集売り場でこれを実現するのは難しい。

 それでもこうした接客が強く求められていると話すのは、大原悠子セールスマネージャー。「少し前までは似合うか、トレンドかどうかで購入するお客が多かったが、今は女性でも物の背景やうんちくにまでこだわり抜く買い方が顕著」だ。客自身がSNS(交流サイト)のハッシュタグなどで「なぜその商品を選んだのかを言いたい」ニーズが高まっているとも指摘する。

 目指したのは「特定のスタイリストが特定の時間に行うのではなく、いつも全員が実践できる、売り場全体が情熱接客であふれている状態」だ。しかし「若いメンバーはノウハウが少なく、バイヤーから間接的に聞いた情報だけで実践するのは無理がある」ことから、一人ひとりが主体的に、楽しく身につけれる仕組みを導入した。それが①朝礼を活用した接客の土台作り②直接デザイナーに思いを聞く勉強会③実践するためのコーナー開設――の3ステップだ。

 

■Step1. 朝礼はゲーム感覚で!

 まず始めたのが朝礼の活用だ。客が何の情報を求めているのか、「相手の心をくみ取る力=想像力」という情熱接客の土台形成を狙い、一方的に連絡事項を伝えるのでなく、ペア・チームになってコミュニケーション力を高める〝ゲーム感覚〟を取り入れた。

①ペアになりゲーム感覚の朝礼をすることで、緊張もほぐれ、笑顔で接客に入れる

ペアになりゲーム感覚の朝礼をすることで、緊張もほぐれ、笑顔で接客に入れる

 

 そのひとつが「想像力朝礼」。全員バラバラの物の名前が書いている紙を配布し、2人1組で質問を繰り返し、相手のカードに書かれた物を当てるもの。たとえば「お菓子」をテーマにした回では、「焼いてる?それとも生?」「フォークとスプーンどっちで食べる?」といった具合に質問を重ね、その答えから想像力を膨らませ、相手のカードに記された「パンケーキ」を当てにいく。このほか「好きなもの朝礼」「どっちか決断朝礼」「ほめほめ朝礼」など5個以上を用意し、「日替わりでマンネリ化しないように」している。

 こうした朝礼にはルプレイス以外の売り場の販売員も参加。「朝一番で必ず笑うので、良い状態で売り場に立てる。新しく入ってきた販売員でも職場に溶け込みやすい」(エンフォルドの宮川奈千さん)といった効果も発揮している。

 接客の土台作りと並行して取り組んだのが、スタイリストが実際にデザイナーと会い、「商品に込めた思いやこだわり」をインタビューする勉強会だ。ほぼ全てのブランドで実施して、可能な限りシーズンごとに訪問している。

 

■Step2.デザイナー本人直撃!

 6月、スタイリスト5人が訪れたのは「ミュラー・オブ・ヨシオクボ」の久保嘉男氏。スタッフから今秋冬の商品のデザインや素材といった説明を受けたあと、久保氏とみっちり1時間、着席形式で取材を行い、「デザイナーを目指したきっかけは」「ライバルは」といった質問をぶつけた。

②「このデザインはバルセロナの路地の風景を落とし込んでいて・・・」といった説明を受ける

「このデザインはバルセロナの路地の風景を落とし込んでいて・・・」といった説明を受ける

③「時にはプライベートなことまで聞いちゃいます」とスタイリストの柴田さん(左から2番目)。

「時にはプライベートなことまで聞いちゃいます」とスタイリストの柴田さん(左から2番目)

 

 スタイリストの柴田真歩さんは、そうして得た生の情報を接客に活用することで「商品に自信を持ってお薦めでき、納得して買っていただけるだけでなく、来店したお客の〝好き〟という琴線に触れて、接客で盛り上がるシーンが増える」と話す。

 もちろん、参加できる人数は限られているため、共有することも忘れない。勉強会に参加したメンバーは共有シートを作成するだけでなく、朝礼後の時間を使って接客ロールプレイングを行い、ヒアリングした情報をアウトプットする。参加できなかったメンバーはロープレを見てインプットするほか、ダメ出しなども積極的に行い、接客時にどう伝えるのがベストなのか、スタイリストが一丸となって模索している。

④デザイナーから聞いた情報は朝のロープレですぐにアウトプット、メンバーと共有。ダメ出しも受けて精度を高める

デザイナーから聞いた情報は朝のロープレですぐにアウトプット、メンバーと共有。ダメ出しも受けて精度を高める

⑤勉強会に参加できないメンバーの方が多いため、誰もが一目でわかる共有シートも作成する

勉強会に参加できないメンバーの方が多いため、誰もが一目でわかる共有シートも作成する

 

■Step3.思いはビジュアルでも!

 とはいえ、30~40代が中心顧客の同売り場で、20代前半の販売員が「デザイナーの考えやブランドのうんちく」をどのタイミングで、どのように伝えるかは悩みどころ。ミスマッチが起これば、「よくしゃべる小娘といった押し付けがましい印象を与えかねない」という。

 そこで売り場の一部に、「ジャパンコミュニケーションステージ」を開設。「客とスタイリスト、デザイナーの三者が心を響かせる場所」という位置づけのコーナーで、デザイナーが撮った日常風景の写真や、インタビュー内容、ブランドのストーリーや生産現場の様子をパネルなどで紹介している。客の関心を引きつけ、興味を持ってもらい、それを感じ取ったうえで効果的に接客できるとともに、機会ロスを低減しているというわけだ。 

⑥一定期間ごとに中身を入れ替え、デザイナーやブランドの目に見えない価値を訴求する(ジャパンコミュニケーションステージ)

一定期間ごとに中身を入れ替え、デザイナーやブランドの目に見えない価値を訴求する(ジャパンコミュニケーションステージ)

⑦デザイナーへのインタビュー内容はPOPでも訴求する

デザイナーへのインタビュー内容はPOPでも訴求する

 

 

 ルプレイスを核にした売り場の「東京モードⅡ」は一連の取り組みが評価され、三越伊勢丹ホールディングスが毎年実施している顧客満足向上のための「職場の約束運動」で、1200を超えるチームの中から15年度最優秀賞を獲得した。旗振り役を担った大原さんは「お客は常に変化している。欲しいアイテムや商品は定まっておらず、着用シーンだけをぼんやり描いて来店する方が増えているので、それをしっかり把握して提案する精度を高めたい」と次のステップを見据えている。

⑧情熱接客の旗振り役を担った大原さん(前列中央)とスタイリストら。若いメンバーがモチベーション高く、一丸となって取り組んでいる

情熱接客の旗振り役を担った大原さん(前列中央)とスタイリストら。若いメンバーがモチベーション高く、一丸となって取り組んでいる







こちらもおすすめ